公式データがない日本の1945年のGDPを推測してみた

2018年1月8日

経緯

太平洋戦争の終戦後に財政再建を目的に行われた財産税について色々と調べている。調べれば調べるほど面白そうな分野ではあるが、納税額の総額や皇室が納めた額は分かっても、現在とは貨幣価値が大きく異なるため、その納税額の当時の価値を把握するのが難しい。もし、当時のGDPや資本ストックの金額が分かれば、財産税全体および皇室が納めた財産税の納税額の規模などが把握できると思い、色々な資料などを探ってみたので、その結果を簡単にまとめてみる。(資本ストックは別の記事でまとめる予定)

注意事項

以下でも書いているが、まず、政府は1945年の名目GDPを公表していない。次に、学術研究で1945年のGDPを公表したものは、西暦1年から2000年までの世界各国のGDPを推計した故アンガス・マディソン氏の研究1があるが、このGDPは「1990年ゲアリー・ケイミス国際ドル」(それぞれの時代の各国通貨を購買力平価と物価変動率で1990年の共通の国際ドルに換算したもの)で表示されており、超長期の推移をつかむには便利であるが、上記の目的には使えない。
終戦後の混乱で基礎データが不足していたのは間違いないので、政府が「十分な説得力を持った推計ができない以上公表しない」という方針になるのは仕方ない。では何故この記事では1945年の名目GDPを試算するのかというと、単なる好奇心からというのが半分、もう半分は、試算を試みた先例2があるが、具体的な数値が公表されていなかったので、冒頭の問題に取り組むため、その方法で自分も試算して、具体的な数値が欲しかったからである。

戦前のGDPはどこまで調べられているのか?

公式統計のデータ

公式統計では、内閣府が歴史的資料として公表3している1930年のGDPが最古のデータであり、暦年ベースで1930〜1944、1951〜1964年、年度ベースで1946〜1964年のデータが公表されているが、1945年だけデータがない。このGDPは、現在とは異なる概念で推計がなされているため、現在のデータと直接接続することはできない。2
なお、現在のGDP推計と同じ概念で推計されたGDPは、68SNA4に基づいて推計された1955年のGDPからとなる。よって、現在のGDPと接続できる公式統計は、1955年からになる。

経済企画庁GDPデータ(単位:100万円)

 国民総支出実質国民総支出(昭和9~11年価格)
1930年(昭和5)13,850 13,493
1931年(昭和6)12,520 13,942
1932年(昭和7)13,043 14,071
1933年(昭和8)14,334 14,660
1934年(昭和9)15,672 16,239
1935年(昭和10)16,734 16,631
1936年(昭和11)17,800 17,157
1937年(昭和12)23,426 21,220
1938年(昭和13)26,793 21,935
1939年(昭和14)33,083 22,117
1940年(昭和15)39,396 20,796
1941年(昭和16)44,896 21,130
1942年(昭和17)54,384 21,405
1943年(昭和18)63,824 21,351
1944年(昭和19)74,503 20,634
1945年(昭和20)
1946年(昭和21)474,000 11,594
1947年(昭和22)1,308,700 12,573
1948年(昭和23)2,666,100 14,211
1949年(昭和24)3,375,200 14,524
1950年(昭和25)3,946,700 16,115
1951年(昭和26)5,444,200 18,207
1952年(昭和27)6,118,000 20,238
1953年(昭和28)7,084,800 21,657
1954年(昭和29)7,465,700 22,456
1955年(昭和30)8,235,500 24,967
1956年(昭和31)9,292,900 26,577
1957年(昭和32)10,149,800 28,391
1958年(昭和33)10,394,700 29,509
1959年(昭和34)12,577,800 34,374
1960年(昭和35)14,678,900 38,824
1961年(昭和36)17,737,500 44,317
1962年(昭和37)19,290,000 46,798
1963年(昭和38)22,383,400 52,108
1964年(昭和39)25,668,100 57,885

学術研究の成果によるデータ

学術研究では、大川一司・高松信清・山本有造氏による『長期経済統計』5(東洋経済新報社,1974年)で、1885~1940年の55年間の名目GDPと実質GDPが推計されている。また、溝口敏行・野島教之氏による「1940-1955年における国民経済計算の吟味」6(『日本統計学会誌』第23巻第1号,1993年,91-107ページ)では、『長期経済統計』と同様の推計方法により、1940〜1955年の実質GDPの推計がなされている。この2つの学術研究でのGDP推計は、国連統計委員会によって勧告された68SNAに沿ったものであり、現在のGDPに接続可能である。

大川・高松・山本推計データ

大川一司・高松信清・山本有造『長期経済統計』(単位:100万円)

 粗国民支出(市場価格)(当年価格)粗国民支出(市場価格)(1934~1936年価格)
1885年(明治18)8063,852
1886年(明治19)8004,081
1887年(明治20)8184,342
1888年(明治21)8664,449
1889年(明治22)9554,722
1890年(明治23)1,0564,583
1891年(明治24)1,1395,033
1892年(明治25)1,1254,949
1893年(明治26)1,1975,227
1894年(明治27)1,3385,459
1895年(明治28)1,5525,798
1896年(明治29)1,6665,773
1897年(明治30)1,9575,701
1898年(明治31)2,1945,907
1899年(明治32)2,3146,318
1900年(明治33)2,4146,232
1901年(明治34)2,4846,469
1902年(明治35)2,5376,358
1903年(明治36)2,6966,390
1904年(明治37)3,0287,084
1905年(明治38)3,0846,769
1906年(明治39)3,3026,733
1907年(明治40)3,7436,991
1908年(明治41)3,7667,187
1909年(明治42)3,7807,357
1910年(明治43)3,9257,834
1911年(明治44)4,4637,922
1912年(大正1)4,7747,927
1913年(大正2)5,0138,001
1914年(大正3)4,7388,061
1915年(大正4)4,9918,527
1916年(大正5)6,1489,233
1917年(大正6)8,59210,061
1918年(大正7)11,83910,929
1919年(大正8)15,45311,475
1920年(大正9)15,89611,422
1921年(大正10)14,88612,153
1922年(大正11)15,57311,831
1923年(大正12)14,92411,292
1924年(大正13)15,57612,704
1925年(大正14)16,26512,332
1926年(昭和1)15,97512,424
1927年(昭和2)16,29312,843
1928年(昭和3)16,50613,673
1929年(昭和4)16,28613,735
1930年(昭和5)14,67113,882
1931年(昭和6)13,30913,941
1932年(昭和7)13,66014,557
1933年(昭和8)15,34716,025
1934年(昭和9)16,96617,422
1935年(昭和10)18,29818,366
1936年(昭和11)19,32418,763
1937年(昭和12)22,82319,949
1938年(昭和13)26,39420,714
1939年(昭和14)31,23021,954
1940年(昭和15)36,85122,848

溝口・野島推計データ

溝口敏行・野島教之「1940-1955年における国民経済計算の吟味」(単位:10億円)

 名目GDP(採用データ)実質GDP(1955年価格)GDPデフレーター (1955=100)
1940年(昭和15)36.97,500.2 0.49
1941年(昭和16)42.07,667.0 0.55
1942年(昭和17)49.57,683.5 0.64
1943年(昭和18)58.07,561.1 0.77
1944年(昭和19)67.87,393.6 0.92
1945年(昭和20)5,607.6
1946年(昭和21)425.44,292.0 9.91
1947年(昭和22)1,174.4 4,485.7 26.18
1948年(昭和23)2,475.0 4,840.4 51.13
1949年(昭和24)3,403.8 4,966.1 68.54
1950年(昭和25)4,032.1 5,756.4 70.05
1951年(昭和26)5,346.4 6,436.0 83.07
1952年(昭和27)6,227.3 7,071.1 88.07
1953年(昭和28)7,276.0 7,385.6 98.52
1954年(昭和29)7,736.5 7,639.1 101.27
1955年(昭和30)8,332.3 8,332.3 100.00

現在のデータとの接続について

実質GDPについては、『長期経済統計』のデータを使うことで、1885年から現在までのデータを得ることができる。名目GDPについては、溝口・野島推計で採用されたデータを使うことで、1945年以外はデータが得られる。

どうにかして1945年の名目GDPを計算できないか

1945年の実質GDPは推計されているため、この実質GDPに物価指数を適用すれば1945年の名目GDPが試算できる。物価指数として考えられるのは、以下の3つである。

  • 消費者物価指数(総務省統計局)
  • 企業物価指数(日本銀行、昔の名称は卸売物価指数)
  • GDPデフレーター(内閣府)

まず、最もポピュラーな物価指数である消費者物価指数(CPI)については、昭和22年以降のデータしかないため、本件では使えない。次に、企業物価指数については、1901年以降のデータが公表されている。GDPデフレーターについては、実質GDPと名目GDPの両方数値から算出するデータのため、名目GDPが把握できないとGDPデフレーターも把握できない。
そのため、どうやって実質GDPを名目GDPに変換するか検討する必要があるが、GDPの試算であることから、何らかの方法でGDPデフレーターを推計して用いるのがベターではないかと思う。そこで、1901年以降のデータがある企業物価指数(卸売物価指数)を使いながら1945年のGDPデフレーターを試算してみる。
具体的な流れは以下のとおり。

卸売物価指数とGDPデフレーターの比率を求める

1940年以降の卸売物価指数と溝口・野島推計のGDPデフレーターは以下のとおり。

卸売物価指数とGDPデフレーターの推移

 卸売物価指数(1934~1936年平均=1)GDPデフレーター(1955=100)
1940年(昭和15)1.6410.492
1941年(昭和16)1.7580.548
1942年(昭和17)1.9120.644
1943年(昭和18)2.0460.767
1944年(昭和19)2.3190.917
1945年(昭和20)3.503
1946年(昭和21)16.2709.910
1947年(昭和22)48.15026.180
1948年(昭和23)127.90051.130
1949年(昭和24)208.80068.540
1950年(昭和25)246.80070.050
1951年(昭和26)342.50083.070
1952年(昭和27)349.20088.070
1953年(昭和28)351.60098.520
1954年(昭和29)349.200101.270
1955年(昭和30)343.000100.000

卸売物価指数からGDPデフレーターを推計することが不適切かどうか判断するため、2つの指数の推移をグラフ化してみる。なお、卸売物価指数は1934~1936年の平均を1にしているのを1955=100に変換する(GDPデフレーターに合わせるための作業)。

卸売物価指数とGDPデフレーターの推移(1955=100)
卸売物価指数とGDPデフレーターの推移(1955=100)

グラフにしてみると、1940年~1950年については、2つの指数がほぼ同じ動きをしていることが分かる。このため、1945年のGDPデフレーターを卸売物価指数から推測しても、極端に妥当性を欠く値にはならないと思う。

上記のデータを基に、卸売物価指数とGDPデフレーターの比率を求め、その比率を使って1945年のGDPデフレーターを計算してみる。具体的には、まず、2つの指数の比率を求めてみる。

 卸売物価指数(1955年=100)GDPデフレーター(1955年=100)GDPデフレーターの卸売物価指数比
1940年(昭和15)0.4780.4921.028
1941年(昭和16)0.5130.5481.069
1942年(昭和17)0.5570.6441.155
1943年(昭和18)0.5970.7671.286
1944年(昭和19)0.6760.9171.356
1945年(昭和20)1.021
1946年(昭和21)4.7439.9102.089
1947年(昭和22)14.03826.1801.865
1948年(昭和23)37.28951.1301.371
1949年(昭和24)60.87568.5401.126
1950年(昭和25)71.95370.0500.974
1951年(昭和26)99.85483.0700.832
1952年(昭和27)101.80888.0700.865
1953年(昭和28)102.50798.5200.961
1954年(昭和29)101.808101.2700.995
1955年(昭和30)100.000100.0001.000

次に、1944年と1946年の比率を使って、1945年の比率を以下のとおり求める。

( 1.356 + 2.089 ) ÷ 2 = 1.723

そのうえで、卸売物価指数から1945年のGDPデフレーターを試算する。

1.021 × 1.723 = 1.759

1945年のGDPの試算

上記の計算で求めた1945年のGDPデフレーターを使って、1945年の名目GDPを試算してみると以下のとおりとなる。

5,607.6 × 1.759 ÷ 100 = 98.64 (10億円)



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  2. 1945年のGDP ( 経済学 ) – 岩本康志のブログ – Yahoo!ブログ 
  3. 「昭和39年度版 国民所得白書」PP.64-65。ウェブサイトは歴史的資料 国民経済計算 – 内閣府 
  4. 1968年に国連統計委員会が提示したSNAの基準。この68SNAにより、現在のSNAの基本体系が構築され、フロー(生産、分配、所得、支出)とストック(資産、負債残高)の関係、財貨・サービスの取引と金融取引の関係を整合的に分析、解明できることになった。(中村洋一 (2010) 新しいSNA 財団法人日本統計協会) 
  5. 一橋大学経済研究所 社会科学統計情報研究センター 長期経済統計(LTES)検索システムでデータが公表されている。名目GDP実質GDP 
  6. オンラインでも閲覧可能 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjss1970/23/1/23_1_91/_pdf