日産の無資格者による完成検査の問題についての備忘録と雑感

日産自動車の無資格者による完成検査の問題で、マスコミは「日産けしからん」という調子で色々報道していたが、「日産は法令に違反している」とは報道しても具体的にどの法律のどの条項に抵触しているかが報道されていない。仕事柄、こういう問題については、具体的にどの法律の何条に抵触しているのかが気になってしまうので、関係法令や通達を確認してみた。
そして、法令を確認してみたところ、マスコミの論調とは異なる印象を持ったので、自分が確認した情報をまとめてみて、最後に感想を書いてみる。

完成検査を行う法的根拠

 
まず、完成検査を行う法的根拠は、道路運送車両法第75条第4項で、ここで「自動車の構造、装置及び性能が保安基準に適合しているかどうかを検査し、適合すると認めるときは、完成検査終了証を発行し、これを譲受人に交付しなければならない」とされている。「譲渡する場合」とあるが、これはメーカーが販売店に卸すことを指すと思われる。また、「第一項の申請をした者」とは、自動車の型式承認を申請した者で自動車メーカーのこと。
 
引用

道路運送車両法第75条第4項
第一項の申請をした者(注:自動車メーカー)は、その型式について指定を受けた自動車…を譲渡する場合において、当該自動車の構造、装置及び性能が保安基準に適合しているかどうかを検査し、適合すると認めるときは、完成検査終了証を発行し、これを譲受人に交付しなければならない。
(注筆者。以下同じ)

完成検査の具体的な内容についての関係条文

完成検査の具体的な内容や、誰が検査すべきかという点については、道路運送車両法、同法施行令、同法施行規則のいずれでも規定が見つからなかったが、国交省の通達「自動車型式認証実施要領(1998年11月12日付国自審第一二五二号)」で規定が見つかった。具体的な規定は次のとおり。
 
引用(完成検査の内容)

自動車型式認証実施要領別添1の第6の(1)
 完成検査は、別紙1(第6関係)完成検査の実施の方法又はこれに準じた方法により実施すること。

引用(完成検査を行う者)

自動車型式認証実施要領別添1の第6の(3)
 完成検査に従事する検査員は、当該検査に必要な知識及び技能を有する者のうちからあらかじめ指名された者であること。

完成検査で行うべき検査の内容は「自動車型式認証実施要領別紙1(第6関係)」で、A4用紙2枚にわたって列挙されており、自動車の構造や装置について、検査装置やハンマーなどを使って必要な項目について検査するべしと定めている。完成検査の検査員の具体的な指名基準は、同通達には規定されていない。おそらく、型式認証の申請を検討する過程で、メーカーから示された完成検査の手順や、それに従事する者の適格性などを明確に示させたうえで、その内容で問題がないと国交省が確認をしているものと思われる。
そして、完成検査の法的根拠である同法第75条第4項に違反した場合に適用される罰則については、同法第112条に定められている。また、同法第75条第7項では、不正の手段により型式認証を受けた場合、型式認証を取り消すことができると定めており、
 
引用

道路運送車両法第75条第7項
 国土交通大臣は、次の各号のいずれかに該当する場合には、第一項の指定(注:型式認証)を取り消すことができる。この場合において、国土交通大臣は、取消しの日までに製作された自動車について取消しの効力の及ぶ範囲を限定することができる。
一 (略)
二 (略)
三 不正の手段によりその型式について指定を受けたとき。

道路運送車両法第112条
…第七十五条第四項…の規定に違反した者は、三十万円以下の過料に処する。

国交省ができそうな対応

こうした点を踏まえて、今後国交省が罰則の適用や型式認証の取り消しができるか検討してみたが、いずれも難しいと思われる。
まず、完成検査は有資格者が行わなければならない、という規則が国交省の通達で定められているので、今回の日産が通達に違反しているのは確かである。しかし、罰則を適用するには、日産が同法第75条第4項に違反していた、言い換えれば、日産が行った検査は同条に定める検査に該当せず、よって検査が行われていなかったとするか、保安基準に違反する車について完成検査終了証を発行していた事実を見つけるしかないと思われる。通達はあくまでも行政庁の内部基準なので、通達違反=法令違反と短絡的に考えることはできない。よって、国交省が罰則を適用するには、以下のプロセスをクリアする必要があると思われる。

  • 無資格者による検査の具体的な状況を把握する
  • 検査の妥当性を検証する
  • 日産が行った検査は法が定める検査には該当しないと示す

もし、無資格者による検査を行った車で保安基準に適合しない事例が多数ある、という事実でもあれば、罰則の適用は容易になるが、今のところそうした報道も見られないので、国交省が罰則を適用するのは困難と思われる。
また、同法第75条第7項を適用して型式認証を取り消すという方法については、メーカーが型式認証を申請する際に完成検査の実施体制を示しているため、申請書の記載と実情が異なっている点を取り上げる方法が無い訳ではないが、「申請の時点で不正があった」とまで言い切れるほどの悪質な事案であることを国交省が示せるかどうかが鍵になる。
 

本件の感想

日産に続いてスバルでも同様の問題が発覚したが、保安基準違反の車は、無資格者が完成検査していた時期に集中的に出荷されていると指摘した記事は見当たらないので、出荷した車の品質には特に問題はないのではないかと思われる。自動車製造における品質維持は、最終検査を厳しくすることではなく、”悪いものは造らない、次の工程に流さない”の”自工程完結”を進めることで維持している。そもそも、ラインの最後で不具合が見つかろうものなら、ラインで行ってきた作業がすべて無駄になってコストに跳ね返ってくるので、コスト対策の面からも自工程完結で品質を高めることは理にかなっている。おまけに、輸出車については完成検査を行わなくても良いらしいので、完成検査の必要性も乏しくなりつつあったと思う。ついでに言えば、自動車メーカーは自動車の部品を全て作っている訳ではなく、かなりの部分をデンソーやタカタなどの下請けに作らせている。よって、最終検査で仮に不具合があったとしても、その原因が組立工程にあるのか部品自体にあるのかで対応も変わってくる。前者なら自動車メーカーが全面的に責任を負うが、後者なら、一義的な責任者は下請けであり、完成品メーカーに検査を義務付けても間接的にしか品質向上は図れない。
また、現在の自動車は走るコンピューターとも言われるが、完成検査の基準にコンピューターは登場しない。かろうじて、電気装置について「視認その他適切な方法により検査すること」とあるので、この項目をもってコンピューターも検査対象としているのかもしれないが、検査基準が現代の自動車に適合しているかは若干の疑問がある。
こうした点を踏まえると、自動車の品質を最終検査で確保するという考え方が現状にそぐわなくなっていて、設計から生産までの全工程を踏まえた品質向上のための取り組みを国交省も含めて検討していくべきだったが、そうしたことが出来ないうちに、一部の企業で法の適用がルーズになっていた実態が表に出てしまった、というのが本件の実態ではないだろうかと思う。
いずれにせよ、今回の件がある以上、当面は完成検査を厳格に行うべきという議論になっていくと思われるので、完成検査で品質維持を図るべきという考えは、表向きには残っていくことになると思われる。