皇室財産と財産税 〜戦前の皇室はどれだけの資産家だったのか〜

2018年1月8日

なぜ皇室財産について調べたのか

終戦後に日本政府が課した財産税について、富裕層の没落に繋がったとか、財政再建にはほとんど効果がなかったとは聞いていたものの、詳細がよく分からなかったので、一度調べてみたいと思って資料を読んでいた。すると、財産税の課税対象に皇室財産も含まれていたことを知った。
そこで、財産税について調べる一方で皇室財産の金額とかも調べてみたので、その結果を書いてみる。

なお、現在の憲法では、第88条に「すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。」と定められているため、皇室財産は全て国有財産の行政財産の皇室用財産として管理されている。

* 本記事は財務総合政策研究所公表の『昭和財政史-終戦から講和まで』の第9巻「国有財産・造幣・印刷・専売」http://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/syusenkouwa.htmに基づいているが、数値については、本文と資料集で微妙に異なる箇所がある。そうした場合、資料集の数値を採用している。

皇室財産の総額

最初の金額把握

実は、敗戦まで、皇室財産は財産全体の目録的なものもない状態であった。数量管理の帳簿はあった模様だが、以下で述べていくように、巨額の財産があったのだから、管理のために金額まで把握できる詳細な財産目録が必要だと思うのだが、実際にそうした目録的なものはない状態だったそうである。
そうしたなか、昭和20年10月22日に連合軍から「皇室財産の総額」を報告するよう指示1があった。連合軍からは、不適確であっても総額を報告するよう求められていたことから、財産の一部について財産評価を行い、その結果を基にして全体額を推計することとした。その時の皇室財産全体の評価額は、16億円であった。
その後、昭和20年11月18日に連合軍から皇室財産凍結指令2が出され、同指令の中で、上記の皇室財産の推計額を審査して、審査結果を15日以内に報告するよう求められた。その指令に対応するため、大蔵省に大蔵次官を会長に、各委員に大蔵省や農林省などの局長を任命した皇室財産調査委員会が設置された。
この委員会において皇室財産の評価額を審査した結果、昭和20年9月1日現在の皇室財産の総額が以下のとおり評定された。

Table1. 昭和20年9月1日時点の皇室財産評価額

財産の種類 評価額
現金、有価証券 33,045,960円
土地 368,815,382円
立木 592,865,000円
建物 309,887,694円
各種動産3 78,727,524円
合計 1,661,393,937円

Table2. 昭和20年9月1日時点の皇室財産評価額(有価証券の内訳)

財産の種類 評価額
国債 138,221,513円
地方債 26,347,217円
社債 58,546,024円
株式 87,983,583円
合計 311,098,337円

Table3. 昭和20年9月1日時点の皇室財産評価額(土地の内訳)

財産の種類 評価額 面積 面積
林地 64,667,992円 1,301,166町 12,904km2
農地 17,935,180円 39,112町 388km2
宅地 75,250,000円 228町 2km2
宮殿地 207,225,000円 921町 9km2
雑地 3,737,210円 8,520町 84km2
合計 368,815,382円 1,349,947町 13,388km2

Table4. 昭和20年9月1日時点の皇室財産評価額(立木の内訳)

財産の種類 評価額 数量
用材 554,202,000円 69,949,292m3
燃料材 38,663,000円 34,564,881m3
合計 592,865,000円 104,514,173m3

Table5. 昭和20年9月1日時点の皇室財産評価額(建物の内訳)

財産の種類 評価額 面積
宮殿 212,721,000円 17,844坪
庁舎 15,921,800円 27,104坪
官舎 2,165,400円 6,378坪
倉庫 14,843,700円 12,315坪
陳列館 46,819,300円 10,229坪
校舎 3,074,600円 4,663坪
正門茶席 280,700円 56坪
帝室林野局庁官舎 10,278,094円 28,827坪
工作物 3,783,100円 一式
合計 309,887,694円 107,416坪

財産税の納付に伴う財産評価

GHQの指示もあって皇室財産が財産税の対象外とされなかったため、財産税を納めるため、財産税法および戦時補償特別措置法の規定に基づいて、昭和21年3月3日現在で財産を評価することとなった。
皇室財産全体の評価自体が戦後になって初めて行われたものであり、また、上記の評価はあくまでも推計であったため、あらためて財産税の評価基準に沿った皇室財産全体の評価が行われた。非常に大変な作業であったと思われるが、何とかして評価を行い、その評価に基づいて財産税が賦課された。
財産税の評価基準に沿った評価額などについては、財産税を納税して新憲法が施行された後、物納しなかった皇室財産について、国有財産法上の皇室用財産とするものとそれ以外を区別するために設置された「皇室用財産調査委員会」報告書4で簡単に触れられている。その内容を以下の表にまとめてみる。

Table6. 財産税の基準による財産評価額

財産の種類 評価額
昭和21年3月3日時点の皇室財産評価額 3,747,950,033円
同日時点の負債額 32,365,141円
課税標準額(評価額 – 負債額) 3,715,584,892円

Table7. 上記財産評価額の内訳

財産の種類 財産全体の評価額 財産全体の数量
土地 772,627,262円 13,384km2
建物 * 234,143,967円 192,397坪
立木 1,639,757,295円
船舶 15,274円
動産 1,101,406,235円

* 建物の数量が Table.5 の2倍近くあるが、数量が異なる原因は見つけられなかった。

日本の国土の面積やGDPに対する皇室財産の割合

上記のとおり、皇室財産は数量、価格ともに非常に大きいが、どのぐらい大きいか把握するため、日本の国土の面積やGDPと比較してみた。

土地の面積比較

国土面積との比較

日本全体(昭和25年10月1日時点) 5 皇室財産 割合
368,383km2 13,384km2 3.6%

大部分が山林であるとはいえ、皇室が非常に広大な土地を保有していたことが分かる。都道府県の面積と比較すると、長野県の面積13,562km2に次ぐ広さであり、47都道府県でこれより大きいのは、北海道・岩手県・福島県・長野県の1道3県だけである。 6

森林面積についての比較

日本全体(昭和18年1月1日) 7 日本全体(昭和21年1月1日) 7 皇室財産 割合(昭18年比) 割合(昭21年比)
224,628km2 169,091km2 12,904km2 5.7% 7.6%

まず、日本全体の森林面積については、統計数値を見ると昭和18年から21年にかけて25%も縮小している。戦争遂行と戦後復興のために大量の伐採が行われたことが原因と思われるが、どちらの数値と比較するかで印象が変わるため、縮小前後の数値と比較してみる。
皇室が保有していた土地のほとんどは山林(森林)であったが、昭和18年時点の日本全体の森林の5%強を保有していたというのだから非常に大きな面積を保有していたことが分かる。
2010年時点の日本の私有林の場合、保有山林面積が10ha(0.1km2)の林家が林家全体の9割を占め、林業経営体の場合でも、保有山林面積が10ha(0.1km2)の林業経営体が全体の約6割を占めているので、皇室が保有していた山林がいかに広大であったかが分かる。8

耕地面積についての比較

日本全体(昭和21年時点) 9 皇室財産 割合
52,710km2 388km2 0.7%

耕地については山林ほどの割合にはなっていないが、平成28年時点の1経営体あたりの経営耕地面積(全国平均)が0.03km2(北海道に限れば0.3km2)10という点を踏まえると、こちらも広大な面積であったと言えるだろう。

GDPとの比較

GDPとの比較にあたっては、上記の財産税の納税にあたっての評価額と、評価時点(昭和21年3月3日)が属する年である1946年のGDPとを比較する。ただし、1946年は激しいインフレが起きており、日銀が公表している戦前基準卸売物価指数(1934〜36年平均=1)は、1946年1月7.936、2月8.676、3月11.950、12月22.490と大幅に上昇している(年間平均は16.271)11
そのため、財産税の評価時点が12月であれば、上記の3月3日時点の価格と大きく異なる価格になっていたと思われるが、確たる計算もできないので、3月3日時点の評価額と年間のGDPをそのまま比較する。

1946年の名目GDP: 4,254億円 12
皇室財産の総額(昭和21年3月3日時点): 37.5億円(0.9%)

皇室という1つの家だけで、GDPの約0.9%に相当する財産を保有していたのだから、皇室財産が巨額の財産であったことが分かる。これを日本銀行の国内企業物価指数(戦前基準)13を用いて現在の貨幣価値に変換すると次のとおりとなる。
なお、消費者物価指数は1947年(昭和22年)から始まっているため、今回の計算には使えない。GDPデフレーターは、政府発表数値と学術研究数値を順次接続しないといけないため手間がかかるし、また、最新のデータが2015年のため、今回の計算では、日銀は超長期データを公表している国内企業物価指数で計算した。

国内企業物価指数(戦前基準)グラフ

37.5億円 × (686.464 ÷ 16.271) = 1,582億円

( 国内企業物価指数: 1946年は16.271、2017年は686.464 )

蛇足

ちなみに、Forbesが毎年発表している長者番付で、2017年の日本一の資産家には孫正義氏が選ばれている。同氏の2017年の総資産額が2兆2640億円14であるが、2016年の日本のGDPの約524兆円15と比較すると約0.4%になる。



  1. 皇室の組織及び財政についての報告に関する司令部覚書 (1945年10月22日ESSセクションメモ) 
  2. 皇室財産に関する司令部覚書 (1945年11月18日SCAPIN300) 
  3. 美術品などについては、「市場ニ類稀ナルモノ大部分ヲ占ムルヲ以テ評価不能」としている。 
  4. 皇室用財産とするのを適当と認める皇室財産の範囲に関する皇室用財産調査委員会報告 (1947年4月28日) 
  5. 総務省統計局「日本の長期統計系列 1-7 国土総面積」 http://www.stat.go.jp/data/chouki/01.htm 
  6. 国土地理院「平成28年全国都道府県市区町村別面積調」 http://www.gsi.go.jp/KOKUJYOHO/MENCHO201610-index.html 
  7. 完結昭和国勢総覧第1巻(東洋経済新報社, 1991) P.220 
  8. 平成27年度森林白書 第1部 第 III 章 第1節 林業の動向(2)http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/27hakusyo_h/all/chap3_2.html 
  9. 完結昭和国勢総覧第1巻(東洋経済新報社, 1991) P.165 
  10. 農林水産省「農林水産基本データ集 | 農地に関する統計 | 一経営体当たり経営耕地面積(農業経営体)」http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/10.html 
  11. 完結昭和国勢総覧第2巻(東洋経済新報社, 1991) P.443 
  12. 溝口敏行・野島教之氏による「1940-1955年における国民経済計算の吟味」(『日本統計学会誌』第23巻第1号,1993年,91-107ページ) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjss1970/23/1/23_1_91/_pdf 
  13. データはこちらのサイトで入手可能。日本銀行時系列統計データ検索サイト 
  14. 日本長者番付 by Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン) https://forbesjapan.com/feat/japanrich/ 
  15. 2016年のGDPは内閣府ウェブサイトに掲載されている第一次年次推計値を採用した。 http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/gaiyou/pdf/point_20171208.pdf