財産税とはどんな税金だったのか(後編)

財産税の概要

前回の記事で財産税の概要を説明したので、実際の課税状況について書いていく。

実際の課税状況

課税価格を階級別に区分した課税状況の数値が、1946~51年度分で公表されているため、その6年間の実績を見てみる。なお、表中の税率は「税額 ÷ 課税価格」で求めている。
実際の課税額を基に税率を求めてみると、課税価格15万円以下の階級では税率が10%以下となっている。これは、課税価格10万円以下の部分が非課税であることが大きな理由と思われる。また、それ以外の階級でも、最上位の1,500万円超の階級を除き、課税価格を金額で区分してそれぞれに税率を適用する方式が効いて税率が抑えられている。
ただし、最上位の課税価格1,500万円超の階級については、後述の皇室財産を除いても1人当たりの課税価格は2,978万円であり、財産の半分近くに90%の税率が適用されるため、税額は2,618万円、税率は87.9%と非常に多額の税金を納めることになった。
Table 1. 課税価格毎の財産税の課税状況(単位: 千円, %)

課税価格の階級

件数

課税価格

税額

税率

10万円超11万円以下

57,803

6,079,428

74,677

1.2

11万円超12万円以下

50,527

5,817,146

204,098

3.5

12万円超13万円以下

42,331

5,299,289

309,631

5.8

13万円超15万円以下

65,301

9,140,326

848,171

9.3

15万円超17万円以下

46,893

7,490,016

1,002,260

13.4

17万円超20万円以下

49,359

9,108,241

1,641,944

18.0

20万円超30万円以下

79,177

19,230,990

5,113,705

26.6

30万円超50万円以下

50,170

19,044,983

7,212,700

37.9

50万円超100万円以下

25,184

16,992,896

8,300,213

48.8

100万円超150万円以下

5,269

6,342,194

3,601,887

56.8

150万円超300万円以下

3,307

6,595,786

4,174,464

63.3

300万円超500万円以下

734

2,779,686

1,941,892

69.9

500万円超1500万円以下

386

2,891,797

2,215,140

76.6

1500万円超

48

5,147,701

4,567,883

88.7

合計

476,489

121,960,479

41,208,665

(資料: 大蔵省財政史室編『昭和財政史ー終戦から講和まで 第19巻 統計』p.284 を基に筆者作成 http://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/syusenkouwa.htm)

物納の状況

物納の状況については、1946~51年度の実績が分かるため、その状況を見てみる。また、政府が事前に物納の内訳などを予想していたので、その予想との比較も見てみる。
Table 2. 物納財産の収納額(単位: 千円, %)

区分

実績

構成比

旧勘定及び準旧勘定預金

4,298,289

37.3

有価証券合計

2,666,634

23.1

(国債等)

923,731

8.0

(社債、地方債)

143,246

1.2

(株式)

1,205,210

10.4

(その他有価証券)

394,447

3.4

不動産合計

3,815,909

33.1

(土地)

1,929,238

16.7

(家屋)

246,707

2.1

(立木)

1,639,964

14.2

動産合計

752,780

6.5

合計

11,533,615

(資料: 大蔵省財政史室編『昭和財政史ー終戦から講和まで 第19巻 統計』p.289 を基に筆者作成 http://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/syusenkouwa.htm)k
Table 3. 事前の物納の予想と実績の比較(単位: 百万円, %)

区分

予想

実績

現金・第一封鎖預金

9,200

28,405

旧勘定預金等

7,500

4,298

国債

2,700

924

株式

7,200

1,205

地方債、社債

800

143

土地その他

14,000

4,963

延納

2,100

1,099

43,500

41,037

(資料: 大蔵省財政史室編『昭和財政史ー終戦から講和まで 第9巻 国有財産・造幣・印刷・専売』p.87 を基に筆者作成 http://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/syusenkouwa.htm)k
当初の予想とは異なり、現金等による納付が非常に多くなっている。そのため、物納財産の換金の手間は抑えられたと思うが、大量の土地や株式が物納されていれば、インフレによる恩恵(売却時の歳入増加)が受けられたのではないかとも思う。また、国債が物納されれば、その分だけ国債残高が減少することになるが、予想の27億円に対して実績は9億円であったことから、これによる国債残高の減少はほとんどなかった。
財産税では、延納(分割払い)も選択可能であり、実際、11億円の延納がなされている。もし、延納を選べば、手元に残った財産から生じる利益がこの後のインフレにより増えていき、税負担も減少していったのであるが、そういうインフレで得をすることになった納税者は、結果的に、当初の予想よりは少なくなったと思う。
なお、物納財産では立木竹が1,639,964千円(14.2%)と土地に次ぐ割合を占めているが、このうちの99.9%が皇室財産からの物納である。皇室財産の課税価格は約37億円で、税額は約33億円であり、財産税における最大の納税者であった。物納された財産の合計額は11,533,615千円のため、皇室の物納額は物納財産の3割近くを占めており、非常に大量の物納がなされたことが分かる。
Table 4. 皇室財産の課税価格と物納額(単位: 千円)

区分

課税価格

うち物納分

土地

772,627

663,501

建物

234,144

91,825

立木

1,639,757

1,638,754

船舶

15

15

動産

1,101,406

943,110

3,747,950

3,337,206

(資料: 皇室用財産調査委員会『皇室用財産とするのを適当と認める皇室財産の範囲に関する皇室用財産調査委員会報告』(1947年4月28日) を基に筆者作成)
ちなみに、課税価格1,500万円超の階級で、皇室財産を除いた状況は次のとおりである。
Table 5. 課税価格1,500万円超の階級に占める皇室財産の割合(単位: 千円, %)

区分

件数

課税価格

税額

全体

48

5,147,701

4,567,883

うち皇室財産

1

3,747,950

3,337,206

差引

47

1,399,751

1,230,677

割合

0.02

72.8

73.1

Table 6. 課税価格1,500万円超の階級の1人当たり課税価格など(単位: 千円, %)

区分

1人当たり課税価格

1人当たり税額

皇室財産含む

107,244

95,164

皇室財産除く

29,782

26,185

財産税の効果

もともと、財産税はインフレ対策、戦時利得の没収および社会的富の再分配を目的とした税で、個人財産税、法人財産税、個人財産増加税および法人戦時利得税の4つの税をセットで施行することでその目的を達成しようとしていた。しかし、軍事補償の打ち切りによって、個人財産税以外の3つの税が取りやめとなり、財政収入の確保を前面に出す形で実施されることになった。
しかし、財産税の実施時期はインフレ激化の真っ最中であり、当時の物価指数を見ると、財産の評価時点(1946年3月)と納税期限(1947年2月)の間で物価が2倍程度上昇している。このため、納税期限までにインフレで上昇した価格で財産を換金できれば、実際の税率を下げられたと思われる。納税者から見れば悪い話ではないが、富の再分配の効果は薄まったものと思われる。
Table 7. 物価指数の推移

年月

卸売物価指数(総合)

東京小売物価指数(総平均)

単純平均

1946年3月

11.95

12.10

12.03

1947年2月

23.61

29.87

26.74

(増加率)

97.6%

146.9%

122.3%

(出典: 『完結昭和国勢総覧 第2巻』(東洋経済新報社, 1991年) p.443,467)
また、財産評価の基準日である1946年3月3日は、新円が発行され始めた2月25日の6日後であり、この短期間に新円で財産を貯め込んだ者はいないと思われるが、逆に、評価基準日以降に新円で財産を貯めこんでもそれは課税対象外となってしまった。こうした点も、財産税が当初想定していた富の再分配の効果を薄めることに寄与したと思われる。[1]
財産税を行う最大の原因であった債務の軽減という問題についても、財務省の分析(下の図参照)によると、結局のところ、財産税や戦時補償特別税はほとんど効果がなく、急激に進んだインフレが圧倒的な効果を発揮することとなった。
そして、財産税で得た収入は、財産税等収入金特別会計の歳入とし、そこから公債の返済に回そうとしていたが、大部分は一般会計に組み入れられ、経常的な支出に使われてしまった。具体的な金額を出すと、1946~52年の財産税と戦時補償特別税の税収は約684億円で、そこから421億円を一般会計に繰り入れし、263億円を国債返済に回している。
このように見ていくと、財産税が資産家を斜陽階級にした大きな要因であったことは間違いないと思う。そして、一般会計の多額の支出を支えたことは確かである。しかし、債務負担の軽減という当初の目的に対してはそれほどの効果を発揮し得なかった。
つまり、財産税が社会に与えた影響は、納税者の負担ほどには大きいものではなく、戦後の混乱に対処するための膨大な経費の財源の1つであった、というところではないだろうか。


1. 経済企画庁編『戦後経済史 1 総観編』東洋書林, 1992年, P.35