労働者保護は企業規模にかかわらず公平にするべき

2018年3月30日の日経新聞に次の記事が出ていた。

働き方改革、中小延期了承 自民部会、改革法案に配慮規定 :日本経済新聞

内容は、厚生労働省が働き方改革関連法案を自民党の厚生労働部会などの合同会議に提出して了承されたというものだが、この部会での了承を得るために行われた修正が問題である。

その修正は、人手不足が深刻な中小企業の経営悪化を懸念する自民党内の意見を踏まえて、残業規制の中小企業への適用を2020年4月まで延期し、さらに同一賃金については2021年4月まで1年延長するというものである。さらに、労働基準監督署(労基署)が指導する際、中小企業には配慮することも付則に盛り込まれる。

中小企業の経営者は喜んでいるかもしれないが、この修正は「中小企業の従業員の労働改正は後回しで良いよね」と言っているのに等しいものである。

確かに、中小企業は大企業に比べれば人手不足感が強く、それは統計にも表れている。(ただし、中堅企業は中小以上に人手不足感が強い。)

法人企業景気予測調査-雇用BSIの推移
財務省:法人企業景気予測調査の時系列データより作成

財務総合政策研究所:法人企業景気予測調査の時系列データより筆者作成

しかし、その人手不足感への対応策が残業規制の適用延期というのは安直に過ぎる方法である。この延期中に中小企業で過労死が起きた場合、規制を一律に適用していれば防げたはずという議論は当然可能となるわけで、言い換えれば、野党に攻撃材料をわざわざ与えるようなものである。

また、適用を延期するといっても延期は1年間であり、その間に中小企業を取り巻く状況がどの程度改善されると見込んでいるのだろうか。中小企業にとっても短い期間だと思うが、支援を迫られる政府にとっても作業期間はほとんど無いも同然である。つまり、特に意味のある延期とは思えないものであり、自民党の部会を通すためだけに付け加えた修正ではないだろうか。

また、中小企業の指導にあたり労基署に配慮義務を課すという修正については、現場の労働基準監督官にどれだけ負担を課せば気が済むのかと言いたい。“配慮”と言えば聞こえは良いが、従業員の労働環境と企業の経営環境を天秤にかけるという非常に難しい判断を労働基準監督官に課すということである。これでは、現状でも重い負担を課されている労基署にさらなる負担が課され、労働基準監督業務の停滞を招くことになりかねない。

自分は働き方改革法案について、改良の余地はあると思うが基本的には賛成、という立場であるが、この修正は賛成しかねるというのが正直な感想である。労働者保護を図りつつ、高度人材もそうでない人材も“正社員”という同じ制度で対応しようとして無理が生じている現状を変えるのが当初の狙いだったと思うが、中小企業への配慮を盛り込んでしまっては、労働者保護が弱くなってしまう。

現在の国会は財務省の文書改ざんと森友問題に特化してしまっている感があるが、野党が国会で何を取り上げるかは自由としても、改正法案提出前の段階であれだけ労働者保護を訴えたのであれば、自民党の部会で決定したという事実をもって中小企業への“配慮”等について議論しても良いのではないだろうか。

絶叫作戦は勘弁してほしいが、前向きな議論には賛成である。

なお、蛇足になるが、働き方改革法案を巡る議論の間、労働者保護を担う労働基準監督署の強化を訴える議員がいたかどうか国会会議録検索システムシステムで調べたところ、自民党議員の宮下一郎議員が次のような形で触れているのを除いて見つけられなかった。私の見落としかもしれないので、気付いた方がいれば教えて欲しい。

○宮下委員 (略)ここで、御参考までにパネル三をごらんいただきたいと思いますが、これは、労働基準監督署の労働基準監督官数の推移を示したグラフでございますけれども、この中で、点線の折れ線グラフの部分をごらんいただければ、採用者数というグラフですが、第二次安倍内閣になってから、採用者数をしっかりふやして増強しているということがわかります。ぜひとも今後ますますの体制充実をお願いしたいと、この場をおかりして申し上げたいと思います。
 ここで、改めまして、裁量労働制での過労死をなくすための法制度上の対策、監督体制の強化、そして相談体制の充実についてどのように対応されるのか、加藤大臣の御所見を伺いたいと思います。
○加藤国務大臣 (略)それから、監督官の体制等、今お示しをいただきました。まだまだ私ども十分ではないと思っておりますけれども、年々の人員要求等で必要な人員をしっかり確保し、そして、監督官の資質の向上をしっかり図りながら、適切な監督行政が行われていけるように、更に努力をしていきたいと思います。


働き方改革法案について、こちらのブログを参考にした。民間企業で人事業務に携わっていた方のブログである。

2018-03-01 – 吐息の日々