奨学金が大事だと思うなら国民全体に負担を求めるべき

2018年4月4日付の日経新聞朝刊にこんな記事があった。

自民党の教育再生実行本部の特命チームは3日、大学在学中の授業料を卒業後に出世払いで返済する制度の中間報告をまとめた。家計所得で約1100万~1200万円未満の世帯を対象に、年54万~120万円を補助し、卒業後の所得に応じて返済するよう求める。年9800億円を見込む財源として財政投融資の活用を訴えた。
返済できない「貸し倒れ」分の補填は完済者に追加負担を求めることなども提言。高等教育の負担軽減には巨額の財源が必要なため党内でも異論があり意見集約を急ぐ。

大学の授業料を卒業後に出世払いする制度は、オーストラリアで導入された「高等教育拠出金制度」(The Higher Education Contribution Scheme、通称「HECS」)やHECSの後継であるHECS-HELPといった制度を参考に検討しているものらしい。この記事を書くにあたり、この制度について簡単に調べて見たが、次の記事を参考にした。


国立国会図書館:オーストラリアにおける高等教育費用負担制度の最近の動向


大学の授業料の出世払いの検討については、自民党で検討していることを報道で見聞きしていたが、恥ずかしながら、オーストラリアで同様の制度が導入済みであることは、上記の記事を見て調べるまで知らなかった。

大学の授業料を負担できそうにないと思って高校卒業と同時に就職した身なので、出世払いが可能であれば大学進学も視野に入っていたかな、という気もするのだが、手放しで賞賛するには気になる点がある。

まず、財政投融資の資金をあてにするという点については、現在の独立行政法人日本学生支援機構も財政投融資の仕組みを使って資金調達を行なっているので、その延長線で考えているのだろう。なので、この点は特に問題があるとは思わない。

卒業後の所得に応じて返済額を決めるという点については、日本学生支援機構が既に猶予年限特例又は所得連動返還型無利子奨学金制度 – JASSOという名称で導入しており、条件が厳しいのを緩和することで対応は可能ではないかと思う。ただ、現在の制度は無利子奨学金だけが対象なので問題にはならないが、有利子奨学金でも同様の返済を認める場合、返済の猶予期間にも利子が課される制度になると、猶予期間は返済しなくて良い代わりに利子が積み上がっていく期間となってしまう。これでは、低収入が続くほど返済総額が増えてしまう。この辺りは、制度設計でカバーするしかないだろう。

一番気になるのは、貸し倒れの損失補填を完済者への追加負担で賄おうとする点である。出世払いの奨学金を導入しているオーストラリアやイギリスでは多額の損失が出ているそうで、この損失への対応策として上記の記事で小黒一正教授が提案しているのは、返済額に付加的な負担を上乗せして制度に参加する者全員で負担するという方法である。これと似たようなものだということで、完済者に負担をしてもらうという発想になったのかもしれない。しかし、完済者に負担を求めるのであれば、上限を設けないと負担が青天井になる恐れがある。また、制度に参加した全員が、返済する都度負担する方式ではないので、その時点での完済者に負担が集中することになってしまう。なぜ、貸し倒れの損失補填を完済者に求めるという発想になったのかは謎であるが、こういう補填については、制度参加者全員に負担してもらうか、日本国として高等教育を推進するということで税で補填するかのいずれかによるべきだと思う。

大学の授業料を卒業後の年収に応じて出世払いするという方法は、卒業後の返済能力に応じて返済金額が決まるという点で、借りる側にしてみれば、将来の収入に自信がなくても大学に進学してステップアップを図るチャンスを与えるという点で良い制度だと思うが、素晴らしい制度も細部の設計を誤ると目も当てられない結果に終わってしまう。自民党の提言を受けて文部科学省がどこまで制度を練ることができるかが鍵になる。