高度プロフェッショナル制度の導入条件を簡単に整理してみた

前置き

公私ともに忙しくしていたら前回の投稿から1か月が経過してしまったので、そろそろ投稿を再開する。

さて、高度プロフェッショナル制度の導入を盛り込んだ「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」が衆議院で可決され、政府・与党は6月中の成立を目指している。

衆議院での可決前後は、Twitterのタイムラインに反対意見がずらずら並んでいたので、参議院での可決が近づけば同じ光景になるのが想像できるが、安保法案や特定秘密保護法の成立前のSNSの状況を踏まえれば、Twitterで反対意見を述べても法案成立を阻止できる訳でもない。よって、制度は導入されるという前提で色々考える時期に来ているということである。

という訳で、高度プロフェッショナル制度(以下「高プロ」)の導入条件を調べてみたので、簡単にまとめてみる。なお、参考にした資料は末尾にまとめている。

制度の導入条件

会社が高プロを導入する場合、まず、会社として導入を決定しないといけない。ただし、社長の鶴の一声で即導入とか、取締役会で決定したら即導入という制度にはなっておらず、次に示す委員会で決議することが必要となっている。

労働基準法第41条の2第1項の抜粋(今回の法改正で追加予定)

賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)

ここで登場する委員会は労使委員会と呼ばれる委員会で、改正後の労働基準法第41条の2第3項で準用される労働基準法第38条の4第2項第1号により、委員の半数は、労働組合または労働者の過半数を代表する者によって指名された者が就任することになる。

労働基準法第38条の4第2項第1号(今回の法改正の対象外)

当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に厚生労働省令で定めるところにより任期を定めて指名されていること。

この委員会で委員の5分の4以上が高プロの導入に賛成し、役所に届出をして、ようやく会社として高プロを導入することができる。言い換えれば、労働者側の代表者が過半数を占める委員会で、5分の4以上の賛成がなければ制度の導入自体ができないということである。

そのため、自分の勤める会社で高プロを導入して欲しくなければ、Twitterでつぶやくより、この委員会に参加する労働者側の委員に対して、制度導入に反対するよう要請する方が効果的だろう。Twitterのつぶやきをチェックしている活動家や野党政治家は、あなたの職場の委員会まではタッチしないはずである。

そして、会社として高プロを導入したら、次は条件に当てはまる労働者に対して、高プロを適用してくことになるので、次は高プロを適用できる労働者の条件についてみてみる。

高プロを適用できる労働者の条件

高プロの適用対象となる労働者は、労働基準法第41条の2第1項の第1号と第2号で次のとおり定められている。

労働基準法第41条の2第1項第1号および同項第2号(今回の法改正で追加予定)

一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)

二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲

 イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。

 ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

法律の条文だけでは具体的な内容が掴みにくいが、まず、対象となる業務については、この改正案の基になったと思われる平成27(2017)年2月13日付の労働政策審議会の建議「今後の労働時間法制等の在り方について」を見ると、次の業務が念頭に置かれていることが分かる。

報告書骨子案の4の(1)

金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等

この業務に従事する労働者となれば、金融業やコンサルタント会社に勤務する労働者が中心であり、その他に、メーカーの研究職が加わるというところだろう。まず、この条件で適用対象となる労働者はかなり絞られ、経理とかコーディングを担うプログラマとかは適用対象からは外れてくる。

そして、次の年収条件については、法律の条文では「平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準」となっているが、具体的な金額はというと、上記の報告書骨子案では「1,075万円」が目安となっている。

よって、適用対象となる労働者とは、金融業やコンサルタント会社で働く年収1,075万円以上の労働者か、年収1,075万円以上の研究者ということになる。

業務内容はともかく、年収で1,075万円以上というのはかなり魅力的である。言い換えれば、これだけの高収入が得られる身でなければ、高度プロフェッショナル制度の適用対象にはならないということである。

ちなみに、厚生労働省の「平成29年賃金構造基本統計調査」によると、年収1,000万円以上の労働者の割合は、男性で0.6%、女性では0.2%であり、ほとんどの労働者は高度プロフェッショナル制度の適用対象外となるだろう。1

大雑把なまとめ

以上のとおり、高プロ適用に関する主な条件を見てきたが、高プロを適用されたくない人向けの対処法としては、自分の年収を1,000万円以下にして欲しいと交渉する労働者はいないだろうから、労使委員会に参加する労働者側の委員に対して、制度導入に反対するよう要請するのが一番効果的だろうと思う。

また、話はずれてくるが、高プロの反対理由に過労死が増えるというものがあるが、過労死が増えるかどうかは、法律の規制よりも実際の監督体制の充実度合いに左右されるだろう。

例えば、高速道路での速度超過による事故を防ぐために制限速度を70キロに強化しても、オービスを半分に減らせば規制強化前よりもスピード違反は増えるし、それに伴って事故も増えるだろう。

これと同じことで、現在も高プロ導入後も、強制労働は労働基準法第5条違反だしサービス残業も違法であるが、労基署の手が回らないので、違法行為をやってのける経営者が後を絶たない。労基署の人員を増強しない限り、現在違法行為に手を染めている経営者は規制を強化しても違法行為を続ける。

労働基準法第5条(強制労働の禁止)
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

違法行為の是正は、法に基づく権力が実際に行使されて実現するものであり、そのためには、実地調査等を通じて資料を集めて評価し、資料からどこまでの違法行為が認定できるか検討し、実際に違法行為を認定して是正を命じるという地道で息の長い作業が必要となる。そのため、過労死やサービス残業の撲滅を図るなら、監督体制の強化・充実を図る方が実効性が高い。言い換えれば、“プラン”について議論するのは自由であるが、“ロジ”に相当する部分も同じくらい重要である以上、両方を論じて実効性のある議論をするほうが建設的だと思うのだが、賛同してくれる人が少ないのが頭痛の種である。本記事を読んで、少しでも実務について思いを馳せてくれる人が増えれば良いのだが。


参考資料
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案新旧対照条文
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案の概要
労働政策審議会建議「今後の労働時間法制等の在り方について」(報告書骨子案)
Q2.労使委員会とはどのようなものでしょうか。|労働政策研究・研修機構(JILPT)
平成29年賃金構造基本統計調査の概況