水道法が改正されなくても水道事業の民営化は可能

前置き

Twitterのタイムラインに「水道民営化」という単語が登場し、何が起きたのかと思ったら水道法の改正案が衆議院を通過したという話であった。

高プロとかに反対している人たちが早速怒り心頭になっているので、そもそもどういう改正内容なのか確認してみたので、その結果をまとめてみる。

水道民営化が可能になった?

結論から言えば、今回の水道法改正前から民営化は可能となっている。実際、水道法第6条第2項は、水道事業の経営者を「原則として市町村」と定めているが、地元の市町村の同意があれば「民間事業者でも水道事業を経営できる」と定めている。実際、小規模なリゾート地では、民間事業者が5,000人以上に水道を供給している事例がある。1

水道法第6条第2項

水道事業は、原則として市町村が経営するものとし、市町村以外の者は、給水しようとする区域をその区域に含む市町村の同意を得た場合に限り、水道事業を経営することができるものとする。

また、厚生労働省が発表している『水道事業における官民連携に関する手引き 第Ⅱ編』で、官民連携の一形態として完全民営化が挙げられている。地方公共団体が運営していた水道事業を完全民営化した事例は皆無であるが、理論上は、現行法でも水道事業を“国鉄からJR”のように完全民営化することは不可能ではない。

よって、今回の水道法改正で民営化が可能になったという主張については、現在の水道法でも民営化は禁止されていないと回答することになる。

完全民営化以外の官民連携方法

完全民営化とまではいかなくても、現行の水道法でも水道事業の民間事業者との連携は可能となっており、実際、メーター確認や浄水場の運営などの業務を民間委託することは広く行われている。

このほか、民間のノウハウを活用する方法には、DBO方式やPFI方式もあり、両者とも実績を上げている。DBO方式もPFI方式も、水道施設の設計・建設・維持管理・修繕などの業務を一括して民間事業者に委託する点は同じであり、委託期間が10~30年の長期間になることや、運営に必要な費用を市町村が民間事業者に支払う点も同じである。両者の違いは、DBO方式では、建設資金は市町村が用意するのに対し、PFI方式では民間事業者が調達し、施設完成後に委託料に含めて市町村が支払うという点である。

では何が変わったのか?

上記の民間連携は、いずれのパターンでも、利用料は市町村が住民から徴収し、市町村が委託先の民間事業者に必要経費を支払う形となっている。また、完全民営化を除いて、水道施設の所有権は市町村が有している。

それに対し、今回の水道法改正で導入されたコンセッション方式(PFIの一形態)は、水道施設の所有権を引き続き市町村が有する点は他の民間連携と同じであるが、水道料金を民間事業者が徴収し、集めた水道料金で施設の維持管理や修繕も含めて事業を運営していく点が大きな違いになっている。

従来のPFI事業とコンセッション方式の違いのイメージ図 (福島隆則・菅健彦著『よくわかるインフラ投資ビジネス』(日経BP、2014年)p.71)

このコンセッション方式自体は、2011年のPFI法改正で導入済みの制度で、本記事執筆時点で神戸空港の運営などいくつかの実績がある。2元々、水道事業は、PFI法制定当初から対象事業となっていたので、水道事業にコンセッション方式を導入することは理論上は可能であった。しかし、官民の権利義務関係の明確化や、事業の安定性・安全性・持続性を確保するための法制化ができていなかったことから、実際の導入は不可能となっており、国が法制化を行う必要が生じていた。

今回の水道法改正では、市町村がコンセッション方式を導入する場合、国の許可を得る必要があると定めており、その許可基準は水道法施行規則で定めるとしている。よって、前述の権利義務関係の明確化などの論点については、施行規則で示されるはずである。これにより、市町村が制度を導入するか否かを検討する際の論点が明確になり、官民連携の方法も広がることとなる。

民間事業者に任せたら水道料金が上がるのでは?

もっともな疑問であるが、この点については、コンセッション方式導入の許可基準を定めた改正水道法の第24条の6第1項第2号により、水道料金は「能率的な経営の下における適正な原価に照らし、健全な経営を確保することが出来る公正妥当なものであること」という基準に適合するよう定められている。この基準は、市町村が運営する場合でも適用される基準であり、民間事業者に任せたという理由だけで大幅に値上げされることはないと思われる。

ただし、コンセッション方式を導入して民間事業者を募る場合、日常的な維持管理や修繕に加えて、水道施設の老朽化に伴う更新業務も実施するよう求めるはずなので、その更新費用を賄うための値上げは考えられる。ただし、市町村が運営しても老朽化に伴う更新は行う必要があるので、「誰がその費用を徴収するか」という違いがあるだけである。言い換えれば、誰が運営しても利用者から徴収する必要があるお金であり、利用者の反発を恐れて徴収しなかった場合、老朽化しても更新できないという事態に陥るということである。

民間事業者は維持管理をサボるのでは?

コンセッション方式導入の許可申請に添付する計画書の記載事項には「水道施設運営等事業の適性を期するために講ずる措置」を記載する必要があり、また、第24条の6の許可基準でも「事業の計画が確実かつ合理的であること」「水道の基盤の強化が見込まれること」が定められている(改正水道法第24条の5第3項)。そのため、市町村が民間事業者を募る場合、提案書には詳細なメンテナンス計画を明記させ、運営開始後は、提案通りにメンテナンスを実施しているか市町村がチェックすることになる。そして、要求水準に満たないと判断すれば、是正を要求したり違約金を課すこととなる。

水道料金や維持管理に限らないが、PFI方式で民間委託を行う場合、発注者側は「民間事業者に委託する業務において、民間事業者が達成すべき水準」を定めて公表し、その基準を満たすことを条件に業者を選定している。普通の人が想像するような問題については、その要求水準書でカバーされ、市町村がモニタリングしていくことになるので、そこまで心配する必要な無いと思われる。

民間事業者が撤退や倒産したら?

単独の民間事業者が受託していた場合、受託業務以外の事業が原因で倒産する可能性はあるが、PFIの場合、複数の民間企業が出資してSPC(特定目的会社)を立ち上げ、そのSPCが受託するのが普通であるため、受託業務以外の事業が原因で倒産する事態は考えにくい。一方、受託業務が赤字になって倒産や撤退する可能性は考えられるが、その場合、市町村が運営していても非常に苦しい事態であり、他の市町村との連携などに踏み切る必要が出てくるだろうから、民間事業者の撤退や倒産というよりも、水道事業の存続自体が困難になった事態ということになるだろう。

とはいえ、民間事業者の撤退は起こり得る問題である以上、委託中にそうした事態を想定して、市町村側にも運営のノウハウが残るよう対策を講じておく必要があると思う。


水道法の一部を改正する法律案の概要
水道法改正案(新旧対照表)
類似事案: 浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業/浜松市