合計特殊出生率2.07人を実現するために必要な出生数は?

前置き

少子高齢化が叫ばれて久しく、また、少子高齢化を食い止める提言が多々なされるようになってからも久しいが、少子高齢化に歯止めはかかっていない。

少子高齢化を食い止めるとはいえ、高齢者を強引に減らせない以上、対策は子育て支援に特化することになるが、日本の合計特殊出生率は2017年で1.43人と 少ない人数にとどまっている。

なので、様々な子育て支援作の導入が主張されているが、本当に出生率が回復したらどうなるかという点が議論が見当たらなかったので、簡単に試算してみた。

試算の前提

試算は、以下の4点を前提として、2020年にいきなり合計特殊出生率が人口置換水準の2.07人になるという想定で行なっている。

前提条件1
女性の人口は、日本人と外国人を含む「総人口」とする。
前提条件2
2020年の女性の人口は、社人研の将来推計値を使う。
前提条件3
2020年の出生率は、2017年の年齢別出生率を1.45倍(2.07/1.43)した値とする。
前提条件4
2020年の有配偶率は、2015年の国勢調査の有配偶者率をそのまま使う

それぞれの前提条件の設定理由は次のとおりである。

前提条件の理由

前提条件1

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の出生率データが「総人口」となっているためである。

少子化の議論は、日本人の出生に限定していると思うので、日本人限定で試算するのがベストと思うが、社人研のデータが外国人も含んだ総人口となっているため、止むを得ず総人口で試算する。

ただし、日本人人口と総人口の比率は、日本人1.00:総人口1.02であることから(2015年の国勢調査)、総人口でも日本人限定でも試算結果に大きな違いは生じないと思う。

前提条件2

現時点では2020年の女性人口は未定なので、何らかの方法で推測する必要がある。

推測方法としては、2019年12月の人口推計をそのまま延長することが考えられるが、出生率で社人研のデータを用いているので、2020年の女性人口も社人研のデータを使うことにする。

前提条件3

合計特殊出生率が人口置換水準の2.07人になった場合を想定していることから、上記のとおり「2.07人÷1.43人」で求めた1.45倍を2017年の15〜49歳の各年齢の出生率に乗じ、その値を仮定の出生率として用いる。

本当であれば、15〜49歳の年齢別出生率を分析して、合計特殊出生率が2.07人となる場合にあり得る年齢別の出生率を求めて試算するべきであるが、私には到底無理なので、15〜49歳の年齢別出生率を一律に1.45倍することにした。

前提条件4

2020年の結婚状況を合理的に予測できないので、国勢調査のデータをそのまま使う。

試算結果

全女性を対象にした場合の試算

まず、女性が結婚しているか否かに関わらず、各年齢の女性全体で子供を産むと想定した場合の試算結果は次のとおり。

年齢女性総人口 A出生率 B出生数 C出産女性の割合 C/A
15521,0000.000412140.04%
16540,0000.001176320.12%
17549,0000.003261,7900.33%
18567,0000.006243,5380.62%
19577,0000.013627,8591.36%
20591,0000.0213912,6412.14%
21595,0000.0305818,1953.06%
22606,0000.0383823,2583.84%
23607,0000.0479429,1004.79%
24603,0000.061637,1456.16%
25611,0000.0769747,0297.70%
26605,0000.0973758,9099.74%
27592,0000.1196670,83911.97%
28599,0000.1416984,87214.17%
29596,0000.1554592,64815.54%
30608,0000.1606797,68716.07%
31622,0000.1594199,15315.94%
32641,0000.1517197,24615.17%
33660,0000.1413793,30414.14%
34671,0000.1304187,50513.04%
35700,0000.1182182,74711.82%
36724,0000.1013873,39910.14%
37734,0000.0833461,1728.33%
38737,0000.067249,5266.72%
39744,0000.0517838,5245.18%
40776,0000.0372728,9223.73%
41796,0000.0239719,0802.40%
42828,0000.0142811,8241.43%
43849,0000.007576,4270.76%
44890,0000.003352,9820.34%
45929,0000.001351,2540.13%
46979,0000.000525090.05%
471,000,0000.000232300.02%
48979,0000.00009880.01%
49954,0000.000151430.01%
合計24,580,0002.069991,340,391

まず、2017年に産まれた子供は「946,065人」であるが、試算結果の1,340,391人はそれより41.6%多くなっており、人数では394,326人多くなっている。

現在でも待機児童の問題は解消されていないが、突然子供の人数が39万人も増えた場合、保育園の不足はさらに深刻になるだろう。

また、各年齢の女性の何割が出産するかについても計算しているが、一番割合が高いのは30歳で、全体の16%が出産するという結果になった。働き盛りと出産のピークの年齢が重なっていることから、育児休暇を整備したとしても出産に伴う労働力の減少は大きいと思われる。

既婚女性を対象にした場合の試算

上では独身・既婚を問わずに試算したが、実際に子供を産んでいるのは既婚者が大部分なので、既婚者だけで合計特殊出生率2.07人を実現する場合の出生状況を試算したものが次の表になる。

年齢女性総人口 A女性の有配偶率 B既婚女性 C(A*D)出生数 D出産する女性の割合 D/C
15521,0000.02%130214164.62%
16540,0000.08%421632150.12%
17549,0000.20%1,0881,790164.52%
18567,0000.73%4,1593,53885.07%
19577,0001.54%8,9037,85988.27%
20591,0002.91%17,18812,64173.55%
21595,0004.62%27,51218,19566.13%
22606,0007.00%42,39123,25854.87%
23607,00010.38%62,98129,10046.20%
24603,00015.12%91,16937,14540.74%
25611,00021.65%132,25347,02935.56%
26605,00028.86%174,58658,90933.74%
27592,00036.26%214,67270,83933.00%
28599,00043.27%259,16184,87232.75%
29596,00049.45%294,74692,64831.43%
30608,00054.52%331,47697,68729.47%
31622,00058.42%363,39399,15327.29%
32641,00061.51%394,30097,24624.66%
33660,00064.06%422,77893,30422.07%
34671,00065.98%442,71287,50519.77%
35700,00067.83%474,82482,74717.43%
36724,00068.99%499,51873,39914.69%
37734,00069.91%513,10761,17211.92%
38737,00070.64%520,65349,5269.51%
39744,00071.20%529,72238,5247.27%
40776,00071.58%555,46728,9225.21%
41796,00071.71%570,78019,0803.34%
42828,00071.80%594,47611,8241.99%
43849,00071.84%609,9626,4271.05%
44890,00071.83%639,3312,9820.47%
45929,00072.05%669,3871,2540.19%
46979,00072.31%707,9265090.07%
471,000,00072.72%727,2482300.03%
48979,00073.21%716,759880.01%
49954,00073.10%697,4131430.02%
合計24,580,00012,312,5921,340,391

独身・既婚を問わずに試算した場合との違いは、年齢別の出産女性の割合が上の試算では最大16%であったのに対し、既婚者に限定すると100%超となる年齢があるうえ、20代も30〜80%と非常に高い割合になっている。

極端な違いが生じる理由は簡単で、晩婚化が進んで年齢が若いほど既婚者が少ないためである。そのため、若い年齢では数少ない既婚者に出産が集中してしまうのである。

実は、内閣府の『結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会』という検討会の資料で、「結婚を希望する者が全員結婚できれば合計特殊出生率は0.29人増加する」という試算が紹介されている。本試算でも既婚者の割合が現状のままでは既婚者に負担が集中するという結果なので、独身の解消は出生率の増加に繋がる可能性がある。ちなみに、検討会の資料では、「希望する時期での出産・子育てが叶えば出生率が0.35人増加する」としていることから、この数値と比較しても、未婚者の存在が出生率に与えている影響は大きいと言えると思われる。

まとめ

まず、最初の試算でも触れた点であるが、出生率が回復したら保育園の需要は間違いなく増える。実際には、保育園が整備されていく状況を見て「産んでも大丈夫」と思って妊娠に向けて努力するものと思われるが、出産に伴って労働力が減少することが予想される中で保育園を整備していくことは非常に大変なことと思われる。

また、少子化対策として出生率の引き上げを図ることは大事であるが、出生率が急激に回復して急激に低下した場合、人口ピラミッドに山と谷ができてしまう。例えば、出生率が15年程度回復して元に戻った場合、その15年間に生まれた者をその次の少子化世代が支えることになる。

そして、これは指摘する人をほとんど見かけないが、子供は社会人になるまでは扶養される側となるため、子供の増加は勤労世代の負担に繋がる。そして、勤労世代は高齢者世代も支えるので、勤労世代への負担はさらに増すことになる。

もちろん、こうした問題は、出生率が急激に回復した場合の話なので、出生率が緩やかに回復していく場合は大きな問題は起きないと思われる。言い換えれば、急激な出生率の回復を目指して無理を重ねて短期間で息切れするような事態を招くよりは、緩やかではあっても確実な出生率の回復を目指す方が良いと思われる。

なお、合計特殊出生率が回復した先進国にはフランスがあるが、フランスは1938年から少子化対策を開始しており、日本より半世紀先行して取り組んでいる。それでも1993年および94年まで減少していたのであり、12年間で合計特殊出生率が1.66から2.0に回復した根底には、第2次世界大戦前から続けていた取り組みがあったと考えるべきだろう。

なので、日本が少子化を解消できていないのも、取り組み始めてからの時間が短いからと考えれば無理もないものと思われる。文字通りの意味で、息の長い取り組みが必要ということである。


参考資料

女性の年齢(各歳)別出生率データ
国立研究国立社会保障・人口問題研究所 -人口統計資料集(2019)- 表4-9 女性の年齢(各歳)別出生率:1925~2017年
2020年の推計人口データ
国立研究国立社会保障・人口問題研究所 出生中位(死亡中位)推計(平成29年推計)
女性の既婚者の割合データ
総務省統計局国勢調査 平成27年国勢調査 人口等基本集計(男女・年齢・配偶関係,世帯の構成,住居の状態など) 配偶関係(4区分),年齢(各歳),男女別15歳以上人口,配偶関係別割合及び平均年齢(総数及び日本人)
合計特殊出生率の求め方
合計特殊出生率は、どのように計算するのですか – 埼玉県