日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書) 太平洋戦争において、日本軍が補給をおろそかにしたことで前線の兵士が塗炭の苦しみを味わったことは周知の事実であるが、その苦しみがどれほどのものであったかを克明に記したのが本書である。 膨大な戦病死と餓死や、劣悪極まりない輸送船の悲劇などは他の書籍でも描かれているが、本書は大量の資料――日本軍と戦った米軍側の資料も含めて――を駆使してそうした事実を「兵士の目線」で「兵士の立ち位置」から捉えなおし、その悲惨な現実を描き出すとともに、日本軍の実情が貧弱なものであったことも描き出している。 兵士を戦場に送り込むために用意した輸送船は奴隷船のような船であり、攻撃を受ければ瞬く間に沈没し...
日米開戦と情報戦 (講談社現代新書) 本の概要# 日米戦争の開戦決定過程を、インテリジェンスの問題も視野に入れて再検討する著作である。著者は、南部仏印進駐(1941年7月末)以降、日米開戦に到るまでの決定過程については『日本はなぜ開戦に踏み切ったか』(新潮社、2012年)で道筋を説明していたが、同書では南部仏印進駐に至った経緯や、英米の動向については最小限にとどめていたことから、本書でそうした点を補うとともに、政策決定に密接に関わるインテリジェンスの問題も取り上げている。 本書が対象とする期間は、1940年7月から1941年12月の真珠湾攻撃の直前までの期間であり、日米双方がどのような情報を基にし、その情報をどのように評価し...
忘れられた日本の村 本の概要# 著者の筒井功氏は、元共同通信社の記者で、正史に登場しない非定住民の生態や民俗の調査・取材を行っている。 本書を一言で紹介するのは難しく、著者も本書を「エッセイとも旅行記ともつかない妙な内容の著述」と後書きに記している。学術書ではないが、風景の美しさや旅情とやらを紹介する旅行記でもないし、旅の感想を述べるエッセイでもない。著者が、民俗学や歴史の研究成果を踏まえ、実地調査も行い、そこから得られた知見をまとめた書物、というのが本書の簡単な紹介になるかと思う。 現在の町や村が見かけは似ていてたしても、少し古い時代に遡れば、様々な歴史を辿ったために豊かな個性を持つ町村は多数存在していた。例えば、全戸が狩...